音楽につれて
中学2年生の夏休みの美術の宿題。創作意欲はわりとあったけれども、それを作品として結実させるには、何故か音楽が必要だった。大音響で鳴らすことが不可欠だった。
普段聴くパンクやニューウェイヴでは、体が動いてしまって絵筆をとれない。次に、当時の中学生のあいだで賛否両論だった、非常にマニアックでアーティスティックな路線を歩んでいた中期YMOのアルバム"BGM"を聴いたが、これはなかなかよかった。そしてそれに飽きた頃、何気なスイッチを入れたFMチューナーから流れてきたのは、パイヤール室内管弦楽団によるバッハの「チェンバロ協奏曲第1番」。ロック小僧には圧倒的な衝撃をもたらしたねぇ。
創作意欲は溢れかえり、イマジネーションは絵画制作そのものに留まらなかったのを覚えている。ちょうど絵画ではサルヴァドール=ダリの回顧展を見に行ったばかりだったからなおさらだ。スタンリー=クーブリックによって映画化されたことでも知られる、イギリスの作家アントニー=バージェスの小説「時計仕掛けのオレンジ」 "A Clockwork Orange"に、ベートーヴェンの交響曲に性的興奮を覚える少年が出てくるが、当時の状況は、その主人公の症状に近いものがあった。思春期の少年は、ある種の音楽を聴くと脳内麻薬の分泌量が多くなるみたいだ。
バッハという人については当時なんにも知らなかったが、彼の作品をFM番組表で見つけると狂ったように聴き始めた。エアチェック(死語)は、バッハの作品を収めたカセットテープを増やすのに非常に重要だった。書架にはいつのまにかバロック音楽やバッハに関する書籍も増えていった。
正直に告白すると、10代前半のある時期までは、「音楽はパンクかニューウェイヴじゃなけりゃ」なんて愚かにも決めつけていた。今となっては恥ずかしい固定観念だが、当時のディスコ系黒人音楽を頭の軽い体育系音楽とかたづけ、ハードロックやメタルの長い長いギターソロやオルガンのインプロヴィゼーションなんぞは、テクニシャンの技自慢にすぎないと本気で思っていた。今それらを聴くと、それらの良さはすごくよく分かるような気がするんだけれどもね。
中学3年生のある日、興味本位で聴いたKing Crimson"In The Court Of Crimson King"を聴いたときにも、椅子から転げ落ちそうになるくらい衝撃を受けた。世界が見えていないことを思い知らされたよ。やっぱり凄いといわれているものはそれなりに凄いんだと実感させられた。ロックに衝動だけでなく芸術を感じた。ロクに聴きもせずにオールドウェイヴなどと蔑んでた俺は大馬鹿だったと恥じ入らざるを得なかった。
そして高校時代はDuran Duranをはじめとするブリティッシュポップに痺れる。当時好きだった女の子はBilly JoelやCulture Clubのほうが好きだったが、俺は異様に耽美的な雰囲気をもった初期のDuran Duranが大好きだった。思い込み系音楽雑誌Rockin'Onを読みあさり、友人のバンドの真似事に付き合っていた。深夜までライヴに出かけ、楽器を弾く楽しさを覚え、酒もおぼえた。ランボーを気どって人生で一番享楽的だった高校時代。ああ楽しい思い出だ。でも、音楽だけでなんで人はこうも興奮させられるのだろうね。
音楽や文学など芸術を語ることの楽しさを思い出させてくれた、鈴木創さんのサイト 「ロック世代のポピュラー音楽史」
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
こんにちは、heteです♪
同世代だなぁ~♪と感じるキーワードが多くて
うれしくなってしまい、思わず書き込ませて頂きました。
耽美といえば、Japanはいかがですか?
私はYMOつながりでJapanに嵌っておりました♪
あの頃の音楽を聴くと胸がきゅうっとなりませんか?
Duran DuranはCMなどでよく耳にするので
聴くたびに一瞬思春期に戻ってしまいます(笑)
投稿: heteheete | 2004.06.28 12:13
heteheeteさん、コメントありがとうございます。
Japan 好きでしたよ。今でも携帯の着メロに"Quiet Life"が入ってますし、Method Of DanceとかVisions Of Chinaとかマニアックな曲も好きです。女の子はデビシルが好きだったようですが、特にミック・カーンのウネウネしたフレットレスベースやバルビエリのシンセの音色も好きでした。よくも悪くもポップバンドの域を越えてましたね。
投稿: Rough Tone | 2004.06.30 03:33
こんにちは。
私は中学生時代、MTVで育ったので、DURAN DURAN などは良く聴きました。
ディスコへも毎週のように行ってましたね。
いまもCLUBへは良く行きます。
最近はサイケデリックトランスというジャンルばかり聴いていますが、やはり音楽というものは、どこか意識を開放するところがあり、さらに踊るという行為が加わると、太古の昔から何故人々は音楽と共にダンスをしてきたかが、理屈抜きで分かる気がします。
”陶酔”この一言ですね。
投稿: mossarin | 2004.06.30 18:38
>>音楽というものは、どこか意識を開放するところ
>>があり、さらに踊るという行為が加わると、太古
>>の昔から何故人々は音楽と共にダンスをしてきた
>>かが、理屈抜きで分かる気がします。
>>”陶酔”この一言ですね。
よくわかります。音楽と言語はどちらが先に誕生したのかなんて考えたことがありますが、それはほとんど同時? もしかすると音楽のほうが先だったんでしょうか。
「ビート」は生命の鼓動と同意です。生命の神秘を感じます。
投稿: Rough Tone | 2004.07.01 02:29
Twenty first century schizoid man.のGuitar Soloなんか鳥肌物ですよね。1975年ぐらいまでの作品は、すべてアナログ盤で持っていましたが、さすがに売ってしまいました。(King Crimsonネタです。)
投稿: Xoufelm | 2004.07.02 11:52
Xoufelmさんこんにちは
私も"In The Court Of Crimson King"はあの強烈なジャケットに惹かれてLPを買いました。私も同様にかつてポリドールからCD化されたとき手放してしまいました。
そのCDもなくしてしまい、もう一度買いましたが、リマスタリングされたものでした。
でもやっぱりプログレはオリジナルアルバムのLPできいてみたいですね。
今探しているのは"Young Person' s Guide To King Crimson"という初期から中期のベスト版CDなのですが、限定版でとうに絶版になってるみたいですね。"Sleepless"なら持ってるんだけど。
投稿: Rough Tone | 2004.07.03 03:49