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2004.06.19

進化のお荷物

 かつてテレビで放映されたカール・セーガンのテレビシリーズ「COSMOS」は、科学的思考の面白さや、科学の先人たちの苦難の足跡を中学生だった俺にも解りやすく教えてくれた。
 放映から二十数年が過ぎ、番組のホストであったセーガン博士も1996年ガンに倒れた。マーズ・パスファインダーが着陸し、ローバーを走らせ探査を行った火星のその場所は、博士に敬意を表し「カール・セーガン基地」と名づけられている。

 セーガン博士は、人類につきまとう愚かさを「進化のお荷物」だと言った。利己的な行動や、儀式欲、権力に盲従する愚かさ、恐怖や怒りに支配されて行う残虐な行為などは、理性を獲得した人間の振る舞いというより、かなり動物的な反応であるらしい。我々の脳細胞の奥底にある、いわば爬虫類の脳の産物だという。考えてみれば、儀式っていうのは面倒だが、決められたことやってさえいれば楽だし安全なわけで、脳みそは完全にお休み状態だ。

 九州の多くの高校には、今でも新入生を対象に一般的に行われる「応援団(あるいは応援部)」による「応援指導」なるものがある。学校側が生徒の「自主的」な「応援指導」によって権威へ服従することを教えるわけである。生徒を管理する側としては当然のことなのだろう。
 しかしここで何度も表明しているように、個人的には、家族愛や愛校心、郷土愛、愛国心などというものは、自分や他者をとりまく関係のなかで導き出したものでなくてはならないと思っている。サッカーで日本代表の試合を応援するときの高揚や、ふるさとの父母や友人の顔を思い出したときの郷愁は、学校や国家機関による国旗や国歌への忠誠の強制とは本質的に異なるものであり、混同してはならないものだと思っているが、現実の教育を取り巻く環境は残念ながらそういう状況にはないのが現実だ。

 先の応援指導だが、あれはそれなりになかなかよく考えられている。指導(?)を行う応援団は、長く厳しく、そしてうんざりする指導の最後の最後に、それまでの高圧的な態度から一転し、「よくがんばった」などと皆を称えて見せる。それに感きわまった生徒が思わず泣いてしまって、一同感動の嵐!みたいなことになる。そんな光景を見たり体験したことはないだろうか。

 これは「苦痛から解放されたよろこび」と「困難をやりとげた達成感」を誤解させ、動物的で安直なカタルシスに訴える一種のトリックではないだろうか。
 かつて北朝鮮の金日成主席が亡くなったとき、号泣する北朝鮮の人々の映像を見て、日本人の多くはたいへんな違和感をもったと思うが、俺は応援指導で感動して泣いている生徒というのは、彼らと大して変わんないと思うよ。
 信じることはたやすく、依存することはたやすいが、泣く前に泣かされていないか、怒る前に怒らされていないか考えるべきだろう。たやすく信じない勇気も必要ではないかと思う。

「古代の神話作者は、私たちが天と地の子供であることを知っていた。私たちは、この地球上に住むようになってから、進化の危険なお荷物をかかえ込んでしまった。それは、攻撃欲や儀式欲、指導者に屈服することや、外部の人に敵意を持つことなどの、遺伝的性質である。そのような性質のために、私たちが今後も生き伸びられるかどうか、いささか疑問となっている。
 しかしながら、私たちは他人に対する同情心や自分の子どもや孫に対する愛情、歴史に学ぶ気持ち、偉大で高い情熱的な知能も持っている。これらは、私たちが今後も生き延び繁栄しつづけるための明らかな道具である。」

「私たちが宇宙から地球を見るときには国境線は明らかではない。私たちの惑星・地球が、青い弱々しい三日月となり、しだいに小さくなって、恒星の城やとりでを背景に、目立たない小さな光の点となってゆくのを見れば、狂信的な民族的、宗教的、国家的排他主義を信じることは、いささかむずかしくなってくるだろう。旅をすれば、視野が広がるものである。」

 --- 「COSMOS」木村繁 訳 ---

 セーガン博士は、すぐれた天文学者、生物学者、哲学者であり、比類のない教育者でもあった。俺は、彼の著作によって物の見方をすっかり変えられてしまったよ。

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コメント

TB有り難うございました。

これを読ませて頂きまして、「試合を応援するときの高揚」と「苦痛から解放されたよろこび」に共通点が無いだろうかと思い当たりました。決して双方ともを否定するわけではありません。前者においては、本当にその帰属感とか理想を等しくしているのか、後者においてはその緊張または集中が意義があるのかなどの疑問を投げかけるのです。

そして共通しているのは、その畏敬の念は掴み所の無い根源を持っているようです。そしてこのようなものを否定する心算もありません。セーガン博士が教えたのは、「天と地の子供であることを知っていた」を現代風に言い換えたその根源だったように思います。

投稿: pfaelzerwein | 2005.07.29 05:48

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