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2004.06.20

天空のバッハ

 7年ほど前、職場で購読している朝日新聞の夕刊で読んだ、グレン・グールドと漱石についての興味深い記事を覚えている。グールドは、漱石の「草枕」を英訳で読んで傾倒し、音楽劇に仕立てたいと考えていたという。しかし結局、1981年に彼は死去し、それは実現しなかった。だが、俺はその楽劇とはどのようなものになりえるだろうかとあれこれ想像してみた。

 カナダ生まれのグールドは、その独特の完全主義ゆえか、コンサートを嫌い、32歳のときから50歳で亡くなるまでの18年間、コンサートを一切行わず、スタジオ録音を熱心に行ったことで知られる個性的なピアニストだ。

 蛇足だが、カート=ヴォネガットJr.の原作をジョージ=ロイ=ヒル監督が映画化した「スローターハウス5」。この映画は一度しか見たことはないのだが、冒頭からグールドのピアノで「チェンバロ協奏曲第5番第2楽章」が流れていたことが鮮明に思い出される。そうでなくてもSFばかり読んでいた中学高校時代の俺にとって、グールドのバッハは格好のBGMだった。ほとんど毎日「平均率クラヴィーア組曲」や「ゴルトベルク変奏曲」を聞いていた。彼のレコードを注意深く聞いていれば、彼が自分の弾くピアノとともに「歌っている」様子を聴きとることができる。

 さらに想像をめぐらそう。俺の物の見かたに強く影響を与えてくれたカール・セーガン博士についてはすでに書いた。思い出されるのは、セーガン博士の発案で、惑星探査機ボイジャー1号と2号に積まれた「地球の音楽」というレコードである。人類史上はじめて人工物として太陽系外に出た幸運なこの兄弟には、さまざまな人種によるあいさつの言葉や、ザトウクジラの歌などとともに、グレン・グールドの弾くバッハの「ゴルトベルク変奏曲」が収められたレコードが、再生装置とともに積み込まれていた。

 遠い未来、宇宙のどこかで誰かがグールドの引く個性的なバッハを聞いているのを想像するのはなんとも愉快なことだね。

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