吐き気がする週末
職場の連中と週末にやっているバドミントンへの行き帰りは、気分を変えるためにいつもの通勤ルートではなくて、少しだけ遠回りをする。帰りに遠賀川沿いにある直方市植木の公園。そこは、トイレ休憩したり、たまに昼寝をしたり、ひとと一緒だと一緒に弁当を食べたりもするお気に入りの場所である。そこがじつは今回の人質事件で犠牲になった香田さんの実家のすぐそばなのだ。
事件発生以来、香田さんの実家には報道陣が大挙して訪れたという。この週末はさすがに公園にすら足が向かなくて、香田さんの無事を祈りつつ、まっすぐいつもの道を走って帰宅した。
事件発生以来、香田さんの家族に対する誹謗中傷の電話が相次いだという。息子を襲った悲劇に加え、いわれなき非難にまでさらされて、どれほど心労があったことだろう。家族は事件発生まで、息子がイラクに言っていることなど知る由もなかったというのに。
そのような連中の性根は腐り切っていると思う。しかし計り知れぬ心労や、いわれなき中傷から家族を守ろうと奮闘される直方市職員の方々の姿勢は、それらとは好対照だった。
24歳の若者は、その命をなぜあのような形で終えなくてはならなかったのだろうか。今回のイラク入りについて、軽率だという批判はあるとしても、ひとりの日本国民の命が失われたことは厳粛に受け止めるべきではないか。
それが自分探しの旅だったとしても、ひとから笑われるようなことでは断じてない。そのことを揶揄する連中もいるようだが、それと事件の結末は関係づけるべきではない。
香田さんのご冥福を心よりお祈りする。
小泉首相は、事件の一報を聞くやいなや「人質救出に全力を挙げる」「テロには屈しない、自衛隊は撤退しない」とうそぶいた。しかし結果たったひとりの日本国民を救うことさえできなかった。自衛隊の派遣によって危険にさらされているのは、はたしてイラクにいる邦人だけなのか。国内でスペインのような大規模テロが起こってもそう言っているつもりなのか。自衛隊を含む多くの国民の命をかけて、誰に忠誠を尽くしているのやら。
個人的には、「テロには屈しない」とうそぶく首相よりも、スペインのテロののち、政権を握り部隊を撤退させたスペインのサパテロ首相や、人質の命を救うためにフィリピン軍を完全撤退させたフィリピンのアロヨ大統領のほうに、よっぽど国民の生命と財産を守る姿勢が見える。彼らはテロに屈したのではなく、自国民を無駄に死なせなかっただけだと思うのだが。
また、イラクに自衛隊が派遣されたのは、現地イラクのサマーワが「非戦闘地域」ということが前提だったはずだ。入国すると外国人が民間人ですらただちに命の危険にさらされるというイラクという国そのものに、はたして戦地じゃないところなんてあるのだろうか。政府の言う非戦闘地域っていったいなんなんだろう。サマーワだけ特別なのか。自衛隊の頭の上をロケット弾が飛んでいって、宿営地内に着弾しても、「サマーワは非戦闘地域」なんだろうか。そもそも小泉首相が敬愛し、再選を期待するブッシュですらアフガンやイラクでの戦争は「テロとの戦争」だと言っている。だとしたらイラクはまさに交戦国だ。
テロは圧倒的な力に対する弱者の側の破滅的な暴力。正面からまともに戦ぬゆえ無差別の凶行に走る。しかし結果テロはより多くの弾圧を生み、悲劇はさらに増える。テロリストの論理ははじめから破綻している。圧倒的な力による反撃を招き、おなじムスリム同胞を無差別に傷つける結果になるからだ。テロリストにまったく正義はない。
しかしそれを攻撃する側の「正義」というものも思いっきり疑わしい。イラク戦争以前には、イラクには独裁者はいても、ザルカウィのような国際テロリストはいなかった。アメリカとその同盟国が連中を招き寄せたのだ。正邪はともかく、テロを行う論理は彼らの中にあり、人道支援だかなんだか知らないが、テロリストが自衛隊の存在を今回の凶行の根拠にしたことは紛れもない事実だ。テロは実行させることを阻止できるなら、それが一番いい。テロが起こってしまってから反撃してもじつは何の問題の解決にもならない。
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コメント
初めまして。以前から何度か拝見させていただいていましたが、TBしてくださったのをみて、改めてこちらからもTB送信させていただきました。また時々よらせていただきますね。miu
投稿: miu | 2004.11.01 04:22
TBありがとうございます。
こうして香田さんの死について語り、肯定することはきっと供養になります。
いろんな考えがあるんですが、やはり家族への誹謗中傷はやめなくてはいけません。「そんなの当たり前だ」という人もいるけれど、香田さんが拉致された時点で十分心労を感じていると思うんです。同じ人間ならわかりそうですが・・・
ご冥福を心から思うことしか出来ませんが、まだまだこんなことは続くでしょう、残念ながら。
あ!興味深いBLOGとして頂きましてありがとうございます。
こちらもリンクを貼らせて頂きます。
投稿: コングBA | 2004.11.01 08:32
こんにちは。
お元気でしたか?
心配していましたが、heteさんのところでのコメントを拝見したりして、お元気だと安心していました。
さてさて、世の中、どうなっていくんでしょうか???
この先、事態が明るくなるなんて、とても思えません。
ますます混迷を深めていくのでしょうか?
今、すべきことは「憲法を守る」ことなのでは、とつくづく思う私です。
また、いろんなこと教えてくださいね。
では。
投稿: せとともこ | 2004.11.01 14:42
自衛隊をイラクに送った面々は、一体どれほどの覚悟があったのでしょう。
自国民が5人も殺され、サマワの自衛隊キャンプにも、ロケット砲弾が撃ち込まれて、なのに、「情報を得る手段がない」「情報機関を育成する予算がなかった」だと、あほばっかほざいております。
もはや、日本は、米国の尻にくっついているだけの卑劣な犬、としか、世界の目には映っておらぬでしょう。
Rough Toneさんの書かれた、「直方市役所職員の方々の奮闘」に、僅かに心癒される思いがいたしました。
投稿: 龍3 | 2004.11.02 02:21
Rough Toneさん、こんにちは。僕のブログへのコメントおよびリンクをありがとうございました。イラク人10万人以上を殺したブッシュは、国際軍事法廷で裁きにかけなければならないと思っています。
僕のブログからもRough Toneさんのブログをリンクさせていただきました。今後ともよろしくお願いいたします。
投稿: BANYUU | 2004.11.02 15:16
>「情報を得る手段がない」「情報機関を育成する予算がなかった」だと、あほばっかほざいております。
はじめまして、
今後こんなことがないようにCIAに負けないくらいの諜報機関が日本にも必要だと思いました。
投稿: W.T. | 2004.11.02 23:31
TBとリンクありがとうございます
本来はこうした政治的な話を書かずに、チャラチャラ楽しい事だけ
書いてればいいやって思ってたのですが、今回の件は思いを吐き出さずにいられませんでした。
同じ想いを感じてる方が多くいらっしゃって少し救われた気分です
投稿: shu | 2004.11.09 11:18
人質を殺害したザルカウィ等の冷酷な行為はもちろん最低だと思う。しかし要求に応じなければ殺すと予告しているにも関わらず、何も手を尽くさず、人命を二の次にしてまでアメリカに依存する政府のあり方の方に憤りを感じる。
国民の過半数以上が、今回と前回の人質に対し、自己責任だの国が助ける必要がないと言っているようだが、これは正直、恐ろしいことだと私は思っている。危険地域に行ったのだから、殺されても仕方ないという見解である。私はそうは思わない。また殺された人をいつまでも馬鹿だの無謀だの救出に血税を使うなと言い続ける心無い国民がいるのが信じられない。その人の人格やモラルが欠落しているとしか考えられない。
何故イラクへ行ったのか、行きたかったからだろう。
そんなことは死んでしまった後には分かるまい。一つ言えることは、余程の英語力がない限り、外国のニュースには関心がないだろうし、分からないと思う。
周りからイラク行きを反対されたが、好奇心の強い彼はやはり自分の目で確かめたかったのだろう。「怖い」と言って尻込みし、現実から目を逸らす奴よりいいではないか。(少し偏った見方でもあるが・・)
危険地域に行った奴は殺されて当然という人は自分は絶対に危険なイラクへ行くことはないから人質に遭わないし殺されもしないと思っているのだろう。そういう人間も危機感のない平和ボケなのだということが分からない。
小泉は危険地域ではないと行って自衛隊をイラクに派遣したのではなかったのか?危険地域に派遣されていないのならなぜ危険手当として税金から支払っているのか?不思議な話である。
今回の人質に関して政府は最初から諦めムードで殺伐さが感じられなかった。手を尽くしたと行っているが救済に動いた様子は感じられない。副外務大臣がイラクへ情報を集めに行っているが、焦りや緊張感が全く伝わらず、人質の男性が殺されるのは時間の問題とさえ感じられた。何故、イラクへ行ったのか。ということへの執着があり、何故このような事件が起きたのかという疑問は持たないようである。
たまたま通りすがりで、このサイトへ辿り着いたのですが、人質の方へのバッシングではなく政府への問題定義をされていたので、こういう考え方の人もいるんだとうれしくなりました。
おじゃましました。
香田さんのご冥福をお祈りいたします。
投稿: せいせい | 2004.11.10 13:33