« 大滝詠一「ロング・ヴァケイション」 | トップページ | 2001:A Space Odyssey »

2005.06.06

永遠の一瞬

 日曜夜、NHK総合テレビで、NHKスペシャル「一瞬の戦後史 ~スチール写真が記録した世界の60年~」を見た。有名なロバート=キャパや、昨年死去したアンリ=カルティエ=ブレッソンらが結成した写真家集団マグナム。ここに属していたカメラマンの捉えた報道写真を中心に、戦後60年の激動の世界を描いていこうというドキュメンタリー。

 キャパの撮った解放直後の戦後のフランス。パリ解放のとき、髪を丸刈りにされ、群衆にさらされている女性の写真がある。彼女はドイツ兵との間に生まれた赤子を抱いているのだ。彼女は言いようがないほど悲しい顔をしているが、対照的に周囲の群衆はみな彼女を嘲笑している。大衆というか、群衆というものの残酷さを感じるよ。

 スタインベックとともにソビエトを訪れたキャパの一連の写真も紹介された。当時のソビエトの農村で微笑む女性や子供の写真。彼は、世界のどこにでもいるような、屈託なく笑う気のいい中年女性を撮ることで、鉄のカーテンの奥深くで、謎に満ちていた当時のソビエトの人々の姿を伝えようとした。しかしその後、キャパはスタインベックともども合衆国政府からコミュニストというレッテルを貼られることになる。

 マルク・リブーの撮った、アメリカ、ペンタゴン前でのベトナム反戦デモに、銃剣を突きつける軍隊にたいして一輪の花をささげる少女。写真の彼女はその後、ヒッピー生活をおくり、アルコールやドラッグに浸りきった生活をしていたという。しかし、彼女には娘が誕生し、その成長とともに彼女自身も次第に立ちなおった。2003年のイラク戦争の折には、「娘の将来のために」再び反戦デモに参加したという。

 ほかには、イラン革命で民衆に撲殺されたパフレヴィ前国王支持の女性の写真や、ボスニアで民兵がムスリムの中年夫婦を射殺する場面を捉えた写真など。惨い写真だが、それは20世紀を埋め尽くしている無数の悲劇のほんの一瞬を切り取っているにすぎない。

「真実を伝えるためには、被写体にもっと近づかなければならない」というのは、番組の冒頭でも紹介されたキャパの言葉だ。彼の残した写真そのものが、彼の信条を物語っている。戦場で命を落とした彼は、やはり真実に近づきすぎたのだろうか。
 被写体から遠ざかるほど、マクロな視点で全景を見ることができるかもしれない。しかし、カメラマンもまた一人の人間であり、神の視点を持っているわけではない。
 すでに我々は、湾岸戦争の映像によって、空から見た戦争が、ひどくゲームじみて見えることを知っている。さらに高空から見れば、無数の戦争が起こっていることさえまったくわからない美しく青い惑星が見えてくることだろう。しかし俺たち人間は血と肉でできた破れやすい袋。それがその惑星の薄っぺらい地表に這いつくばって、なんとか生きている。

 奇しくも同日、衛星第2放送で放送された「迷宮美術館」のなかで、ピカソの「ゲルニカ」の製作過程が紹介され、こちらも興味深く見たけれど、「画家は目だけをもっているのではない」というピカソの言葉は特に印象に残った。報道カメラマンとて、現実をフレームの中に切り取るのはあくまでカメラマンの心眼。

 そういえば「ゲルニカ」も、キャパを一躍勇名にした「崩れ落ちる兵士」も、同じスペイン内戦を扱ったものだったね。

「一瞬の戦後史 ~スチール写真が記録した世界の60年~」は、火曜の深夜、正確には6月8日水曜日の午前0時15分から再放送される。深夜だが、できるかぎり多くの人に見てほしいと思う。

|

« 大滝詠一「ロング・ヴァケイション」 | トップページ | 2001:A Space Odyssey »

コメント

こんにちは。二つの番組とも、チャンネルをカチャカチャ変えていた際に、ちらっと見たのですがじっくりとは見ませんでした。再放送を見たいと思います。

投稿: 闘うリベラル | 2005.06.06 11:48

こんにちは、お久しぶりです。

 NHKへの与党政治家の介入問題では、かなりNHKに対して怒りを覚えましたが、まだまだNHKには良心的な番組を作ることができる人々もいるという気がしてちょっと安心しました。
 今後もそうであることを期待したいものです。

投稿: Rough Tone | 2005.06.08 02:15

 あなたのブログを、つぎのように引用させていただきました。
 adlib or bilda as 与太郎
http://oshiete1.goo.ne.jp/kotaeru.php3?q=1815813

投稿: 与太郎 | 2005.12.03 01:18

>与太郎さん

こんにちは、はじめまして。
素敵な文章の中で紹介していただきまして
ありがとうございました。

投稿: Rough Tone | 2005.12.05 14:28

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/19737/4432627

この記事へのトラックバック一覧です: 永遠の一瞬:

» 起きないと。 [緑の森を楽しく歩いた]
 「茶色の朝」(フランク パブロフ・物語 ヴインセント ギャロ・絵 高橋哲哉・メ [続きを読む]

受信: 2005.07.07 11:35

» マリリン・マンソン VS ニーチェ 第二戦 2003.6.X 初出 [仙台インターネットマガジン ★仙台のフリーネット雑誌]
というわけで、マリリン・マンソンが ニーチェを読んでいた事を僕は発見したのです。... [続きを読む]

受信: 2005.07.26 21:47

« 大滝詠一「ロング・ヴァケイション」 | トップページ | 2001:A Space Odyssey »